可想

瞼を開いても、光を感じなかった。

闇は鼓膜の感性を際立たせ、

周囲に蠢く何者かの気配を、感情を、

どれをはぶくことなく伝えてくる。

多くの者達が、そこにいた。

 

空間の支配者は、哀の気配。

私の中にも、それはあった。

けれど不思議と、大きくはなかった。

いつかは戻る漁船を待つように、

海のかなたを眺めて過ごす……

そんな夢想の消費。

 

恐れはなかった。

それに勝てるだけの、予感があったから。

 

 

 いずれ

 光はもたらされる

 継続という途の先の

 新たな始まり

 

 

闇の中、人々は、それぞれに歌い始めた。

穏やかに、厳かに。

激しく、悲しく……

音は闇に広がり、溶け込み、また生まれる。

その音の全てを、私は知っていた。

 

拳を突き上げる音もある。

涙に濡れる音もある。

ひたすらに蠢くだけの音も、

感情を秘めようとする音も。

 

全ての音は一様に、【彼ら】の音をなぞっていた。

私も口を開いた。

喉を震わせた。

これまでにない、強い意思で。

全力で。

 

 

 昨日の夜更けに聞いた音

 昨日の昨夜に聞いた音

 更にその昨夜

 その昨夜があった朝に

 その朝の前にあった夕暮れに

 私の全てに

 彼らの音があった

 記憶の四隅

 どれを欠くことなく

 確実に

 

 

 もしも

 もう一度

 歌を歌うなら

 

 

まるで、過去の【彼】が、

今の【彼】にあてた手紙。

気づきが目元の闇を滲ませた時、聞えた。

彼らの音が。

 

 

 目をこらす

 彼らはいない

 しかし確実に……

 

 

 嗚呼

 これは……

 

 

彼らを思う、多くの者達の意識。

皆の心に、こだましている音。

闇の中、意識達は、それぞれの器を飛び出し、

彼らを形成し初めた。

 

彼らにもらった、

喜び、勇気、未来。

興奮、熱狂、幻想。

それらが、どれほど美しいのか、私達は知っている。

それらを、どれほど愛しているのか、私達は知っている。

 

皆の意識は、彼らの音を網羅した。

鮮明に、克明に。

それらの全てが尽き、

悲観が闇を深めようと忍び寄るよりも速く、

新しい音が聞こえた。

 

 この音は知らない

 けれども確かに

 彼らの音

 

 

皆の意識は、はっきりと高揚を示した。

音の在処へと走り出す。

 

 

 知っている

 そこに何があるのかを

 そこに誰がいるのかを

 走る

 走る

 走る……

 

 

心拍の加速が最高潮に達した時、闇は消えた。

目を突いた光。

閉じた瞼を、たやすく透過する激しさ。

 

 

 ただいま

 

 

そう放つ代わりに、彼らは、彼らの音を響かせた。

彼らは誰ひとりとして、音を失っていなかった。

彼らは、新たに生んだ音とともに、そこにいた。

 

光に満たされたステージ。

1、2、3、4……

間違いなく、4人いる。

 

 

 おかえりなさい

 

 

呼びかける代わりに、私達は歓喜に任せ、

全身全霊を震わせた。

 

 

 約束は

 果たされた

 

 始まる

 継続という途の先の

 新たな始まりが

本音

たまたま道に

利益になりそうなものが落ちていたから拾った

 

貴方のですか?

はいそうです

 

使ってもいいですか?

はいどうぞ

 

見つけてくれて

使ってくれて

ありがとうございます

 

ありがとうございます

 

この感謝は

本当の

自分の気持ち

 

時が経っても

風化していない

 

 

あの時拾ったものは

もういりませんから捨てますね

 

そうですか

わかりました

仕方がないですね

 

仕方がないですね

 

これは

 

本当は大切にして欲しい

本当は大切にして欲しかった

 

ずっと思っていたけれど

最後まで言えなかった

 

あの時「ありがとう」を選択した私は

間違いだったのか

 

あの時「ありがとう」を選択した私が

今の惨めさを生んだのか

 

選んだのは私

だから

私の責任

 

だけど

今の悲しみの多くは

あの時私に喜びをくれたはずの

あの人たちのせい

 

あの人たちのせい

 

言い切ったから

もうこれで

本当に終わり

さようなら

 

 

諄々

現状誰にも読まれなくても、いつか読んでくれる読者のために書き続けられるのが作家だ

 

 

と誰かが言ったらしい。

 

その通り、と思う。

一方で、今すぐにでも誰かに読んで欲しい、とも思う。

 

この背中合わせの感情をコントロールできる魂を育てることも、大切なのだろうと思う。

 

魂を育める強さを。

自分を戒める強さを。

他者を妬ましく思わない強さを。

たまには自分を褒める強さを。

記心

先にあるはずの光を信じられなくなって

ただやみくもに走り回っている時も

 

明日の苦を考えないように

ただひたすら笑っていたい時も

 

彼らの音楽の中に漂うことで救われる

 

宇宙の真理まで覗くかのような思考の広がりと

奥行と

激しさと

ロマンチシズム

 

 

手を伸ばしたいけれど

核心に触れてはならないという

本能的な恐怖

 

双方向のように見えて

すれ違いこそが奇跡と思わせるような

孤高の創造

 

【わからない】という感動を

心をえぐって残して行ってくれる

 

あふれ出る感情は

喜びなのか

悲しみなのか

 

願うのは

遠くにあって

いつも光輝いてくれること

神様と一緒に

踊っていてくれること

 

 

【THE PINBALLS 時の肋骨】

復誦

Inter nokto kaj mateno

 

そんなサブタイトルを物語の中に登場させ、思う。

自分は、その時間がとても好きなのだ、と。

とても大切な時間であるのだ、と。

 

その中に生きるうちに、脳の整理をし、記憶をフォルダを分けし、完全な朝を迎える準備をする。

 

夢の世界で楽しんだり、不安になっている間に、色々なものが、自分の知らないところで片づけられているという事実。

 

朝日に起こされて現実に戻るころには、今後二度と開かないフォルダも作られているのだろう。

 

これからも、夜と朝の間に、たくさんの記憶をしまい込んでいく。

 

思い出しただけで幸福感に包まれる記憶は、絶対にしまい込まないように。

 

目を閉じる前に、今夜も自分にプログラムする。

 

何度も。何度も。

回帰

結局はまた

ここに戻るのか

 

自分の在り方を確認できた喜びと

不思議な脱力感

 

この頃よく思うこと

 

なにかを確立しつつある人と

そうでない自分との違い

 

「努力が足りなかった」

 

そんな安易な答えではなくて

 

単純に

 

難しいことをしようとしているのだと

 

だから

 

足りないのではなく

 

し続けなければならないということ

 

ここでゴールだという安息は

 

決してないのだということ

 

それでもまた

 

ここに戻ってしまうのだから

 

一種の病気か

 

前世でかけられた呪いなのかもしれない